MIL-DTL-38999の歴史とシリーズFIVE

MIL-DTL-38999規格コネクタは、いかに防衛技術を進化させたか

現代の航空宇宙・防衛システムは、数十年前に開発されたMIL-DTL-38999規格によって実現されました。

世界で最も先進的な第5世代ステルス戦闘機であるF-22ラプターは、MIL-DTL-38999規格によって可能となった航空宇宙プログラムの1つです。
世界で最も先進的な第5世代ステルス戦闘機であるF-22ラプターは、MIL-DTL-38999規格によって可能となった航空宇宙プログラムの1つです。

MIL-DTL-38999規格コネクタは、航空宇宙・防衛装備におけるコネクタの標準であり、50年以上にわたって使用されています。その開発は20世紀半ばに遡ります。 開発者は、航空宇宙・防衛技術の進展に伴い、堅牢で信頼性が高く、コンパクトなコネクタを必要としていました。航空機、防衛車両、宇宙探査ミッションにおける電子システムの複雑化が進む中、高振動、極端な温度、気密性を含む過酷な環境下で安定した性能を発揮できる新しいコネクタが求められていました。こうして、MIL-DTL-38999がこれらの要件を満たすために開発されました。

基礎となったMIL-C-5015規格

オリジナルのAN9534丸形コネクタは、ダグラスDC-1、DC-2、DC-3航空機での使用のために開発されました。
オリジナルのAN9534丸形コネクタは、ダグラスDC-1、DC-2、DC-3航空機での使用のために開発されました。

MIL-C-5015およびその前身は、MIL-DTL-38999以前の過酷な環境下での標準コネクタでした。1930年代にダグラスDC-1、DC-2、DC-3航空機用に開発されたAN9534規格から始まり、1949年にMIL-C-5015規格が制式導入されました。AN9534に基づいて、標準化の向上、材料の改良、より厳格な試験手順が導入され、防衛および産業用途における互換性、耐久性、信頼性がさらに強化されました。また、コネクタのスタイルやサイズのバリエーションが拡大され、電磁波干渉(EMI)や無線周波数干渉(RFI)に対するより優れた遮蔽機能など、電気性能が向上しました。 しかし、開発者たちが、より高度な機能のシステムを作り出そうとした際、厳しい重量の制約や環境耐性が求められる中で、新しいコネクタシステムの必要性が明らかになりました。

航空宇宙・防衛用コネクタ標準化の確立

アンフェノールMIL-DTL-38999 シリーズIのペア
アンフェノールMIL-DTL-38999 シリーズIのペア

1960年代から1970年代にかけて、アメリカ国防総省(DOD)は、ミッションクリティカルな用途で使用されるコネクタの標準化と品質向上を図りました。この時期には、さまざまな軍事プラットフォームにおける相互運用性と信頼性の向上が強く求められていました。エンジニアやデザイナーは、DODの厳しい要件を満たしつつ、メンテナンスの容易さや多用途性を提供するコネクタの設計に取り組みました。その結果として誕生したのがMIL-C-38999規格であり、後にMIL-DTL-38999と改称され、航空宇宙・防衛向けコネクタの標準として急速に定着しました。

アンフェノールエアロスペースは、当時Bendix Corporationの傘下であり、MIL-DTL-38999の開発において重要な役割を果たしました。Bendixは、第二次世界大戦中に丸形コネクタを製造していた豊富な経験を活かし、MIL-DTL-38999 シリーズI、シリーズII、シリーズIIIの設計を主導しました。

MIL-C-5015からMIL-DTL-38999への主な改良点として、特にサイズと重量の面が挙げられます。MIL-DTL-38999はシリーズや構成によりますが、MIL-C-5015と比較してサイズと重量が約30〜50%小さく、当時開発されていた新世代の航空宇宙・防衛プラットフォームに求められる厳しいスペース制約に適していました。

また、MIL-DTL-38999は、すべての防衛装備メーカが必要とする高密度なインサート配列が可能となり、MIL-C-5015と比べてより多くの電気接続を小さなスペースに収めることができました。このミニチュア化は、燃料効率と運用の柔軟性を向上させることができたために、新しい航空宇宙・防衛プラットフォームにとって特に重要でした。高密度で多芯が可能になったため、高度なアビオニクス、センサーアレイ、通信ネットワークなど、より複雑な電子機能やシステムの統合が可能となりました。

MIL-DTL-38999規格によって提供されるEMI(電磁干渉)やRFI(無線周波数干渉)対策も、MIL-C-5015に比べて優れており、電子戦能力が急速に進化していた時代に適合しました。MIL-DTL-38999には、各コンタクト接点の周囲やコネクタ全体に統合されたシールド機能が備わっており、EMIやRFIに対する大きな保護を提供します。また、アルミニウムやステンレススチールといった高品質の導電性材料と導電性メッキにより、MIL-DTL-38999規格には優れた導電性とシールド特性がもたらされています。さらに、MIL-DTL-38999には強化されたアース機能や高度なコンタクト設計が組み込まれており、EMI/RFIの干渉をさらに最小限に抑えます。MIL-C-5015コネクタもシールドを取り付けることができますが、EMI/RFI保護のレベルは劣っており、基本的な材料だけで構成されています。

さらに、MIL-DTL-38999は、当時、航空宇宙・防衛用途がより高高度を飛行し、より高速で加速し、より深く潜り、より長時間航行し、さらには宇宙に長期間探査することが求められていた時期に、優れた環境シーリング機能を提供しました。

MIL-DTL-38999規格には、さまざまな気密シール、高品質のガスケット、Oリングが備わっており、湿気、ほこり、汚染物質の侵入を防ぎます。高強度のアルミニウムやステンレススチールで頑丈に作られており、耐腐食仕上げが施されていることが多く、耐久性が向上し、極端な温度、振動、機械的衝撃にも耐えられるようになっています。MIL-C-5015も過酷な環境で効果的ですが、MIL-DTL-38999ほど高度な環境耐性を備えたシーリングや保護機能はありません。

現代システムへの道を切り開く

 1970年代に導入され、2006年に退役した艦載多用途戦闘機F-14トムキャットは、先進的なアビオニクスおよび電子システムの一部としてMIL-DTL-38999コネクタを使用していました。
1970年代に導入され、2006年に退役した艦載多用途戦闘機F-14トムキャットは、先進的なアビオニクスおよび電子システムの一部としてMIL-DTL-38999コネクタを使用していました。

MIL-DTL-38999が導入された1970年代は、陸海空の防衛および航空宇宙開発において重要な10年間でした。今日の防衛システムの多くは、この重要な時期に初期の開発と配備がされています。

マクドネル・ダグラス F-4やノースロップ F-5といった旧世代の第3世代戦闘機は、グラマン F-14、ボーイング F-15、ジェネラル・ダイナミクス F-16など、より長い航続距離、高速、機動性、さらなる能力を備えた新しい空軍機に道を譲っていきました。F-15とF-16は現在も米空軍で広く運用されており、将来にわたってこれらの維持・改良が計画されています。

地上では、老朽化したM60パットンやM113装甲兵員輸送車に代わって、M1A1エイブラムス主力戦車やM2ブラッドリー歩兵戦闘車といった新しい装甲車両システムが登場しました。

ロサンゼルス級潜水艦

海軍では、革新的なレーダーおよびミサイルシステムを備え、複数の目標を同時に追跡し交戦できるイージス戦闘システムが1970年代に開発され、1980年代初頭にタイコンデロガ級巡洋艦に初めて搭載されました。1970年代から1980年代初頭にかけて、原子力を動力とする高速攻撃型潜水艦であるロサンゼルス級潜水艦などの新しい潜水艦クラスも登場し、1976年に就役しました。また、米軍の長距離精密打撃巡航ミサイルであるトマホークミサイルの開発も1970年代に始まりました。

これらの革新的な新システムには、すべて共通点がありました。それは、先進的なアビオニクス、レーダー、および通信システムに必要な高密度の電気接続を提供し、優れた環境シーリングと過酷な環境での耐久性を備えた新しいコネクタシリーズが求められていたことです。新しいMIL-DTL-38999コネクタはこれを提供し、F-16で導入されたデジタル・フライ・バイ・ワイヤ飛行制御システムのように、従来の機械的および油圧式飛行制御システムに代わる次世代航空宇宙技術を実現しました。MIL-DTL-38999は、従来のMIL-C-5015よりも小型で軽量な形状を持ち、最新システムの厳しいスペースや重量の要件を満たすことができました。

過酷な環境向け丸型コネクタの今日の標準

過酷な環境向け丸型コネクタの今日の標準

MIL-DTL-38999は、過酷な環境下で相互接続ソリューションの信頼性と耐久性が証明されているため、現在も航空宇宙・防衛装備で多用されています。 アンフェノールエアロスペースは、さまざまな用途に対応するために、MIL-DTL-38999の3つの主要なシリーズと多数の派生品を製造しています。

MIL-DTL-38999 シリーズI

アンフェノールエアロスペースのMIL-DTL-38999 シリーズIコネクタは、バヨネットカップリングメカニズムを特長としており、堅牢で信頼性の高い接続を実現します。これらのコネクタは、高振動や衝撃を受けやすい環境で優れた性能を発揮する頑丈な構造を持っています。腐食耐性のある材料で作られており、極端な温度や湿気にさらされる過酷な条件下でも使用可能です。

シリーズIコネクタは、さまざまなシェルサイズやインサート配列で提供されており、高密度のコンタクトにより、スペースと重量の効率的な管理が可能です。ミッションクリティカルなシステムに最適な選択肢です。ゴムブッシングやシールによる環境シーリングは、ほこり、水、汚染物質からの優れた保護を提供します。

MIL-DTL-38999 シリーズII

MIL-DTL-38999 シリーズII

アンフェノールエアロスペースのMIL-DTL-38999 シリーズIIコネクタは、バヨネットカップリングメカニズムを特長とし、迅速で簡単な接続と切り離しを可能にし、フィールドアプリケーションでの利便性と信頼性を提供します。これらのコネクタは、軽量ながらも高い耐久性と環境に対する耐性を持っています。

シリーズIIコネクタは、シェルサイズや構成のバリエーションがあり、シリーズIに比べて低背位、薄型が求められる用途に焦点を当てています。コンパクトな設計により、スペースが限られた用途に適しており、汚染物質や湿気から保護する堅牢な環境シーリングも提供しています。

MIL-DTL-38999 シリーズIII

MIL-DTL-38999 シリーズIII

アンフェノールエアロスペースのMIL-DTL-38999 シリーズIIIコネクタは、強化されたアンチデカップリングメカニズムと高振動耐性が特長で、最も厳しい用途に最適です。これらのコネクタは、セルフロック機構を備えた3条ねじカップリングメカニズムを採用しており、厳しい振動に耐える堅牢な接続を確保します。

シリーズIIIコネクタは、高密度のインサート配列を提供し、コンパクトな形状で最大限の接続性を実現します。また、優れた腐食耐性を持つ材料で作られており、広い温度範囲で動作可能です。シリーズIIIコネクタは、優れたEMI(電磁干渉)シールド機能と環境シーリングも備えており、EMIや過酷な条件が懸念される環境での使用に適しています。このシリーズは、最高レベルの性能と信頼性が求められる航空宇宙・防衛用途に特に支持されています。

シリーズFIVE

シリーズFIVE

アンフェノールエアロスペースのシリーズFIVEコネクタは、次世代の航空宇宙・防衛のニーズに応えるため、MIL-DTL-38999コネクタの様々な利点を継承しつつ、より軽量、小型、コンパクトな構造にするために開発されました。MIL-DTL-38999 シリーズIIIで要求される全ての特性を満たしながら、シリーズFIVEは、最大20%の小型化、50%の軽量化を実現し、尚且つ、MIL-DTL-38999 シリーズIIIを上回る高電圧要求に対応することができます。 メタル製リテンションクリップ付きの一体成形型インサート、迅速かつ高強度な2条ねじカップリング機構、ダイヤモンド形状のローレット加工は大きな特長です。シリーズFIVEコネクタは、2024年現在QPL品(MIL規格コネクタ品)ではありませんが、米国政府の求めがあればいつでも必要な技術を提供する準備があります。

革新的な構造のシリーズFIVE

革新的な構造のシリーズFIVE

MIL-DTL-38999 シリーズ I、II、IIIとシリーズFIVEの比較マトリックス